異端者の悲しみ

耽溺日記

孫中山先生に会い損ねた話❶

魔都での一日を終えて雨水が染み込んだ路上の吸い殻の様に眠りこけたぼくは東方紅の鐘の音と共に目を覚ました。南京駅への切符を取りに上海駅へ向かうことにした。朝靄の中の福州路を南京東路の地鉄駅に向かう間に飯のことを考えたが、切符を取った後で良いだろうと考えて何も食べずにいた。

 

中国の大都市の鉄道駅、ぼくが“旅情”という言葉を思い浮かべる度に付随するその光景。広場の前の物売りと、少なくなったが宿の客引きとダフ屋。シートに座って時間を潰す人民たち。上海駅の駅舎は近代的だったが、その光景だけは変わらない。所々の公安のどこか気だるそうな顔もおなじみだ。

 

日本国内にいるうちにネット上で予約した切符を発券するだけなので簡単だった。番号と菊の御紋の査証をカウンターに滑り込ませて完了(ワンラ)。

 

駅前の携帯電話市場などを冷やかし、ホリデイ・インの便所を借り、あてもなく駅周辺を歩き始めた。これといった昼飯の決め手がなかったので、一度、宿の近くに戻ることにした。中国での一人旅、飯の選択肢が難しい。中国料理はやはり大皿で何人かでワイワイ食べるのが乙なものだ。

 

宿に戻るとドミトリーには昨日少し話した山東省出身のおっさんが昼寝をしているだけだった。曇り空を混み合う上海の雑踏に戻る気にはなれなかったので、日本から持ってきたうるまとジャルム・スーパーを10本ほど灰にしつつ、夕方からの予定を練った。どうやら回族ウイグルの人たちが集住するエリアがある様だ。中華料理らしい中華料理よりは羊やレーズンを使った様な西方の料理が食べたかったぼくはそちらへ向かうことにした。宿から歩いて十数分程、通りの名前は忘れてしまったが、どの店にも清真(ハラル)の表示があり、羊の棒肉を吊るす店が軒を連ねる通りへと辿り着いた。ぼくの故郷である広州の小北を思わせる光景だ。