異端者の悲しみ

耽溺日記

祈り足りない夜について②

 

 ランチには遅く、ディナーには早い時間のインド料理店には三人のシェフが居た。地下のゆったりとした店内の奥にはリゾートを思わせる観葉植物で彩られたあずまやがあった。クリスマス・イブに何もかも似つかわしくない景色。男ふたり、夜をさまようための指針を決める。わたしは一般的なセットを頼み、男はカレーとナンとチキンとビールをそれぞれアラカルトで注文した。久しぶりに会うのに出てくるのは互いの「ビジネス」の愚痴から「極上の女たち」との「甘い夜」についてまで様々。


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 「稼業」についてからというもの、無職だった頃には考えられないほど忙しく日々が過ぎ去った。北とは思えないほど暑い夏が来て、街にいくつかの行きつけの店が出来て、何軒かの名店が閉店し、何人かの人と街の中でプライベートで飯を食べに行く関係になり、そして雪が降り始めた。

 「ある出来事」がわたしの何かを壊し、雪の降る昼に稼業の街を離れた。街を離れてひとつき南へ西へ北へ東へ流れ続けた。語らい、歌、たばこ臭いホテルの部屋。部屋に風呂が無く、時間を指定して女将さんに風呂を沸かしてもらった熊本の宿も良かった。流れれば流れるほどに素敵な出会いがあり、わたしはこの一ヶ月間、過ぎ去る街に心を残しながら、流れ全体に耽溺していた。


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 「恋の街」での「稼業」の仲間たちとの忘年会は流れてしまった。そうしてわたしは恋の街から遠く離れた土佐の地で、神学校時代の仲間であり稼業の仲間でもあるこの男と落ち合った。わたしたちは互いに愛だの文学だのこの国の行く末だのについて語り合い続けた中だ。そうしてわたしたちは互いに歳を重ねて、気付けば約七年のつきあいとなっていた。わたしがたばこを覚えたのも、後輩として神学校に入ってきた彼のせいだ。就職でも世話になった。もうひとりの「ゲバラ」「パウロ」「スティービー・ワンダー」など数多くの極上のあだ名を持つ、「福音を背中で教えてくれた男」と3人で過ごした、阪神間の丘の上での日々を思い起こしていた。

 昔語りが長くなりすぎた。この夜の出来事に話を戻そう。高知の街いちの繁華街は「ヤリモクでかんざしを買ったthugい坊主」の逸話が有名なはりまや橋の周辺だ。帯屋町の商店街を抜けると、「ひろめ市場」という有名な市場があるが、わたしたちはそこに用はなかった。もっと街の深いところへ、深いところへ、この夜を彩る物語を探しに行くことにした。

つづく、、、、、、